Ⅰ. 一酸化窒素(NO)・活性酸素のシグナル伝達機能
Ⅱ.インフルエンザウイルス肺炎の分子病態論
Ⅲ.慢性感染・炎症と発がんとの関わりについての研究
Ⅳ.ヘリコバクターにおる新興感染症の分子疫学・病態解明
ヘリコバクター・シネディとは
1984 年にホモセクシュアル男性らの直腸から分離培養された菌で当初 Campylobacter 属に分類されていましたが、1989 年に Helicobacter 属に分類された新興 感染症菌です。ヒト以外にイヌやハムスターなどの動物からも分離報告があり、人畜共通感染症菌でもあります。1980 年代以降、免疫不全とくに AIDS に罹患したホモセクシュアル男性を中心として日和見感染症の報告が散見されてきました。
ヘリコバクター・シネディの発生事例
2004年から2005年にかけて、手術後の患者に敗血症を伴う蜂窩織炎が連続して発症する事例があり、我々は、その疫学調査および病原性解析を 行ってきました。血液培養にて、11
例にグラム陰性らせん状桿菌が検出され、16S rRNA の配列と、標準菌株との DNA-DNA hybridization の結果より Helicobacter
cinaedi と同定しました(文献1)。
ヘリコバクター・シネディの血清診断法の確立
これまで免疫能が正常な患者における本菌感染事例はほとんど報告がありませんでした。その理由として、本菌は培養効率が悪いため診療の場で見逃されてきた可能性があげられます。そこで我々は、本菌のゲノムライブラリーを作成、ヒト感染における本菌の主要抗原遺伝子をクローニングし、さらにその組換え蛋白質を作成し
H. cinaedi 感染症の疫学・病態解明に役立つ血清診断法を確立することに成功しました(文献2)。
ヘリコバクター・シネディ関連疾患の解析
最近、自己免疫疾患、動脈硬化症、心臓疾患といった様々な病態とH. pylori感染との関連が示唆されています。興味深いことに、私たちが同定したH. cinaedi主要抗原タンパク質はH. pyloriの抗原タンパク質と相同性を有し、免疫的にも交差反応を示すことが分かりました。また、感染部位が胃粘膜に限局しているH. pyloriに比べ、本菌は血管侵襲性が強く、菌血症を介して全身に感染がおよぶ可能性があり、これまでH. pyloriとの関連が示唆されている多彩な非消化器系疾患の病態に、実際にはH. cinaedi感染が関わっているのではないかと考えています。私たちは、H. cinaedi血清診断法を用いて、様々な疾患群と本菌感染との因果関係を解析すると同時に、感染動物モデルを作成し、H. cinaedi感染症および関連疾患の病態解明に取り組んでいます。
文献
1. Kitamura, T., Kawamura, Y., Ohkusu, K., Masaki, T., Iwashita, H., Sawa, T., Fujii, S., Okamoto, T., and Akaike, T.
Helicobacter cinaedi cellulitis and bacteremia in immunocompetent hosts after orthopedic surgery.
J Clin Microbiol 45: 31-38 (2007).
2. Iwashita, H., Fujii, S., Kawamura, Y., Okamoto, T., Sawa, T., Masaki, T., Nishizono, A., Higashi, S., Kitamura, T., Tamura, F., Sasaki, Y., and Akaike, T.
Identification of the Major Antigenic Protein of Helicobacter cinaedi and the Immunogenicity During Infections in Humans.
Clin Vaccine Immunol 15: 513-521 (2008).
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